にっきもどき。

ちんぽから社会問題まで広く扱いますが日記らしい日記はひとつもないらしいです。現場からは以上です。

地獄に蜂蜜

世の中には2種類の人間がいる。

それは他人との距離感がわかる人間とわからない人間だ。

 

例えば駅やショッピングセンターで小便がしたくなるとする。トイレに行けば、だいたい小便器が3つか4つくらいあって、これが3つだった場合は、真ん中を避ける。4つだった場合は、なるべく端を取る。誰かが入ってきた時に並んで小便することを避けるためだ。こういうことができるやつは、距離感がわかる人間で控えめな部分が日本人らしくていい。トイレですら侘び寂びを感じさせる。メイドインジャパンだ。

 

それに反して、なんの迷いもなく真ん中で用を足すやつは距離感がわからない人間だ。こういう奴に限って、飲み会でガンガン酒を飲ませてきたり、こっちは早く帰りたいのに終電まで付き合わせたりする。そしてこういうやつはもれなく仕事ができて出世していく。肝が座ってるというか、社長になるのもこういったタイプが多い。

 

図書館にいる中年男性たちは馴れ合いを嫌う。館内の至るところに設置されている机、ソファー、椅子にそれぞれの城を構える。距離感がわかるやつが集まる場所だ。

 

その日は少し暖かく、ご飯を食べた後だったので少し眠かった。ついうとうとしてしまい5分くらいだろうか、うたた寝をしてしまった。ガサガサと椅子を引く音で目を覚ました。誰かが隣りに座ってきた。中年男性だ。

 

先程も言ったが図書館にいる中年男性たちは、距離感がつかめるやつが多い。だがもちろん席の埋まり具合にもよるし、公共の場であるからにして、席は譲り合って座るべきだ。状況によっては隣りに座ってくる事自体、別におかしな話ではない。しかし、その時は例外であった。

 

状況を説明すると、この図書館には大きく分けて3つのエリアがある。まずは、本棚の端に設置される席。これは本棚が近いという利点と、本棚によって防音効果をもたらしゆっくり読書したい人向けの席である。

もう一つは窓口の正面に設置されたソファーゾーン。3人がけのソファーが数多く設置されており、大体が2人ずつそこに座っている。ここは新聞を読む人が多く座っており、朝の時間は新聞をめくる音がアンサンブルを奏でる。

そして3つ目は今オレが座っている机ゾーンだ。これは窓口からみて右方向に位置し、12名座れる机が等間隔で2組並んでおり、その奥に4名座れる机が設置されている。12名座れるでかい机はこれが3つ連結されている。調べごとや勉強する際はこの席を利用することになる。

 

この机ゾーンは罪なエリアで、距離感を重んじるばかりに人が座っている前には陣取らないようにしなければならない。例えば、一番端に一人座った場合は、その正面と隣には基本的には座らない。座るなら斜め前か、もう一つずれた横に席に座ることを余儀なくされる。なので席がうまる時はジグザグに人が配置されいき、6席埋まってしまった時にはどこに座るか迷ってしまう。ちなみに休日は、学生が二人組で来たりすることがあるので、さらなる思考を張り巡らさなければならない。

 

 

話は戻るが、その時は例外であった。ソファー席はすでに満員御礼だ。これ以上座ることは無理だろう。しかし、机は違う。まだまだ空席が目立つんだ。俺がいる12名席にはそれまで4人座っていて端から俺、一つ飛ばして中年男性、その斜め横前に中年男性、そしてその斜め前に中年男性と完璧な布陣だった。

●○●○○●

○○○○●○

 

上記のよう図がこうなる。

●●●○○●

○○○○●○

 

はぁ~~~~~~??????なめてる~~~~????

どう考えても無能だろうてめぇ!!!!!!!!!!!

 

と、声を荒げたくなる気持ちをぐっと堪えて読書を続ける。それにどこに座ろうが個人の自由なわけですから。別に名前が書いてるわけでもないし。と冷静を装い、読書を再開する。するとその男はかばんの中身を突然机に広げ始めた。参考書、ノート、電卓、謎のメモ帳、筆箱、タオル、扇子。机を叩くようにドンドンと音を立て勢いよく取り出された荷物をそのまま、かばんをもって出ていったのだ。

 

 

 

 

え?どういうこと??ん??混乱してると男は手ぶらで帰ってきた。

 

 

 

 

 

え?どういうこと?????んんん????それについては全く解決しなかった。かばん捨てたくらいしかその時は思いつかなかったけど、僕が知らないだけで簡易ロッカーでもあるんだろうか。

 

 

 

男は一度席につくとまたどこかにいってしまった。また数分後、いくつかの本を持って席に戻ってきた。今のとこかばんを捨てて本を持ってきただけでなにか喋ったわけではないがうるせぇやつだなと思った。

 

やっと席について何か勉強を始めたと思えば、突然扇子を持って

 

 

バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ!!

バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ!!

 

 

と仰ぎ始めた。それはとても小刻みで、なぜかすべてのストロークが服にあたってボタンに擦れる音がめちゃくちゃでかかった。汗をタオルで拭き取りさらに

 

バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ!!

バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ!!

 

なんだ?酢飯でも作ってんのか?それともあれか?バーベキューの火起こしか?いいか。良いことを教えてやろう。バーベキューにおいてうちわで扇ぐ行為はなんの意味もない。必要なのは着火剤を使用しない場合だけで、火がちゃんと炭にあたってる場合は、そのままじっと火がつくまで見守るのが正しい行為だ。なんてことは言えないのでうるせぇなと思いながらまたじっと見守る。

 

その後も仰いではタオルともちつきのテンポで体の熱を取っていく。ちなみに半袖だ。全然勉強に集中しない彼の視線はどこか遠くを見ている事に気づいた。視線の先には、カウンターに向けられていた。

 

そうか。このおっさんはカウンターにいる司書さんに気があるんだな。でも内気だから声がかけられなくて、こうやって遠くから見守ることしかできないのか。そう思うと隣りに座ってきたことも…いや、でもどう考えてもアウトだわ。哀愁がやばい。

 

おっさんの恋はえぐい。青春とはほど遠い位置に所属する彼らはそれでいて赤子のように繊細だ。

 

世の中には2種類の人間がいる。傷つくことを恐れて遠くから見守るか、恋には障害がつきものだといわんばかりにガンガン突き進むタイプだ。もちろん後者のほうが成功率は高いだろうが、これがおっさんだとどこか悲しいものがある。

 

これが、佐々木蔵之介竹野内豊のような人種であれば、どちらにしても物語になり得るが現実はそうじゃない。俺たちは、福山雅治にはなれないんだ。おっさん。俺は良いと思うぜ。声には出さないお前の恋。俺は応援するよ。

 

しのぶれど色に出でにけりわが恋(こひ)は ものや思ふと人の問ふまで

 

平兼盛の歌があんなにはぴったりだ。

声に出さなくてもわかるよ。恋してるんだよな。俺たちがついてるぜ。

 

 

 

なんてことを想像してたらおっさんは作業を終えたのかそそくさと帰っていった。

 

 

世の中には2種類の人間がいる。妄想にふけることを生業にする人間と、妄想より現実を生業にする人間、そして居眠りをして夢を見ている人間だ。

 

どうやら、長い夢はまだまだ続きそうだ。

 

fin